詩「珈琲専門店X」

いつもの場所で いつもの香り
ついつい 引き寄せられてしまう

色はブラウン 漂う哀愁 僕はこの店を選ぶ
選んでいるつもりはないのに 選んでしまう
脳ではなく、心がここを選ぶのだ

それは一種の恋に近い感情なのかもしれない

桃色ではなく、茶色の液体に対する純情

喉を滴る音色を 注意深く聞き分ける

周囲の環境音すら かき消して

銀座仕立てのスーツがココにはよく似合う

僕はこの店の名前を思い出せない
いや、心が「思い出したくない」と

ただ叫んでいるだけかもしれない

僕はこの店を「珈琲専門店X」と名付けた

味は覚えているのだけど
色も覚えているのだけど

感覚も覚えているのだけど


醒めない幻が僕を呼んでいる
それに応えるように 僕の心はひとりでに街を歩き始めた

もう半年も前の話だったか

空から舞い降りてきた紙切れが

僕を現実に引き戻す
リアルと非・リアルの狭間で 僕は生きてる

暫く歩くと 見憶えのある景色が眼一杯に広がった

「珈琲専門店Xだ。」

心の声が現実に拡散された瞬間
さっきの紙切れは 翼を広げて 飛び立っていった

詩集『Poetry Essential Vol.01(2016)』より
作:坂岡 優

Yuu Sakaoka Lyrics Library

ここでは、創作家・坂岡 優が2016年より発表してきた詩を一作品ずつご覧いただけます。

0コメント

  • 1000 / 1000